2018年4月6日に楽天モバイルネットワークに周波数割当が認められ、13年ぶりに第4の携帯会社が誕生することになりました。これにより、楽天はMVNO(仮想移動体通信会社)から、MNO( 移動体通信事業者 )への道を歩むわけですが、現時点で考えらえれる4つの問題点について書いていきたいと思います。また、最後に4社へ期待する想いを申し上げます。
前提として、2017年4月14日のプレスリリース「携帯キャリア事業への新規参入表明に関するお知らせ」を読み、社会的意義のあることだと感じました。特に次の赤枠部分についてはその表現方法には賛否があると思いますが、利用者視点から言うと、今回の携帯事業参入によって恩恵が受けられる可能性があるのでこれからのサービス展開への期待感が高まりました。
一方、楽天参入により競争激化にさらされる可能性があり、3キャリアの関係者の皆様方には試練の2019年となると思いますし、楽天さんの新規参入表明は決して良いニュースではないと思われます。また、この参入表明後にNTTドコモ、KDDI、Softbankの株価は大きく下落してさらに投資負担の大きさを警戒して楽天の株価は現在も大幅な下落が続いており、高値掴みの個人株主はかなり苦しい状況にあるかもしれません。
また、MVNOの整理淘汰が進む可能性が高く、楽天参入により非常に広範囲で多くの関係者がマイナスの影響を受けていると思われます。恩恵が受けられる可能性のある利用者が多くいる一方で、このように厳しい状況に立たされる方々も多くいらっしゃいます。
リアル社会において「政治、宗教、野球」に関する話がタブーなのは当然なのですが、現在のネットワークエンジニアの仕事をしていると「楽天参入」に関する話も当方の周りでは触れにくい話題となってしまいました。ですから、ここでは個人ブログとしての記事であるとご理解頂ければ幸いです。
楽天参入の課題点 1:現時点で割り当て周波数が1.7GHzのみ
第4世代移動通信システム(4G)の新たな周波数における特定基地局の開設認可は、申請通りNTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天の4社に以下の通り割り当てる方針となりました。
つまり、楽天モバイルネットワークが使える周波数は現時点で「 1.7GHz 」のみとなります。また、3キャリアには「電波が回り込み、建物内にも電波が浸透しやすいという特性」を持つプラチナバンド(700MHz~900MHz)がすでに割り当てられていますが、楽天モバイルにはこのプラチナバンドが割り当てられていれません。
つまり、3キャリアに比べると電波状態が良くないという問題点が現時点であり、これを改善していくことが、今後楽天が成功する上で重要なファクターの1つであると思います。
過去にイー・アクセスが1.7GHzの周波数を軸にサービス展開していましたが品質面で満足度が得られずに必要性をすぐに痛感した経緯もありますからこの点は本当に重要です。ちなみに後にイー・アクセスはプラチナバンドを得ましたが、数カ月後にSoftbankに身売りしました。
楽天参入の課題点 2:設備投資額6000億円では足りない可能性
楽天は携帯事業参入にあたり、7年後の2025年度までに金融機関の借入などで6000億円を調達して設備投資を進める方針を示していますが、3Gをなしにして4Gのみのインフラ構築であるとはいえ、初期投資額6000億円では全く足りない可能性が数多く指摘されています。※ 最新内容では、金融機関の借り入れと親会社からの出資で6300億円となっています。
この約6000億円という設備投資額は、ドコモが1年間に費やす設備投資額と言われています。また、KDDIの場合でも1年間に投資する設備投資額は5000億円と言われています。次の画像はKDDIの「2018年第3四半期の質疑応答スライド」の興味深い内容の抜粋となります。
もちろん、楽天も設備投資の効率化のために具体的なアクションを起こしています。たとえば東京電力、中部電力、関西電力が保有する送電鉄塔、配電柱、通信鉄塔、建物屋上などの電力設備を借りて、そこを携帯電話基地局の設置場所とすることによって設備投資を最大限効率化しようと努力しています。
楽天としては、引き続き随所に設備投資の効率化を行っていくものと思われますが、それでもやはり設備投資金額(初期投資金額)の不足である可能性は否めないと思います。
楽天参入の課題点 3:財務体質が見劣る点、価格競争は大丈夫か
携帯事業者に欠かせない財務体質の観点から、楽天は3キャリアに比べて見劣りしています。
※ ソフトバンクさんは投資会社の要素が強くなっているので、ここではNTTドコモ、KDDI、楽天の3社で比較します。
先ず、ドコモの自己資本比率74.7%、KDDIの自己資本比率58.5%に対して、楽天は11%しかありません。次に、利益剰余金はドコモは4.9兆円、KDDIは3.5兆円に対し、楽天は3200億円となっています。そして、本業の稼ぎである営業利益はドコモは2017年3月期で9447億円、KDDIは9129億円、楽天は1493億円となっており、あらゆる観点から大きな差があります。
<17.12の四季報情報> 単位:百万円
財務 | NTTドコモ | KDDI | 楽天 |
自己資本 | 5,891,103 | 3,745,109 | 683,181 |
自己資本比率 | 74.7% | 58.5% | 11.0% |
利益剰余金 | 4,977,014 | 3,585,574 | 320,397 |
有利子負債 | 221,703 | 1,029,976 | 1,015,781 |
これから楽天には6300億円の有利子負債が発生します。また、永続的に発生する通信設備の保守費用、更新、新たな設備投資による費用も毎年発生します。この財務体質において、
これらの資金負担はかなり厳しいものであると思います。シェア争いにおいて「価格競争」と3キャリアが本気になった場合に、この財務状況で勝負するのは困難を極めると思われます。
楽天参入の課題点 4:ローミングを提供するNTTドコモ次第
上述の「周波数割り当て」や「設備投資金額」よりも、この点が最も問題になると思います。先ず、楽天が2020年までに3キャリアのように日本全国を通信電波カバーするのは、物理的に不可能です。そこで、全国で基地局整備が完了するまでの間はNTTドコモの電波を借りる形となりローミングをすることになると思います。
それでは、NTTドコモの親玉であるNTTはどのような見解を出しているのかを見てみます。
◆ NTT社長「義務も断る理由もない」=楽天との相互接続
NTTの鵜浦博夫社長は9日の決算記者会見の席上、携帯電話事業参入を表明した楽天と、傘下のNTTドコモがローミング(相互接続)するとの観測に対し、「協議を断る理由はないが、一方で(接続に応じる)義務もない」と述べた。
自前の通信インフラを持たない楽天と回線をつなげば、新たなライバルに手を貸すことになる。しかし、NTT側が受け取る手数料がビジネスとして成り立つ水準であれば接続に応じる可能性を示唆した形だ。:時事ドットコムニュース(2018/02/09-19:42)
つまり、NTT側との交渉においてどのような条件で折り合えるのかが、楽天の携帯電話事業の収益や成否を左右するといっても過言ではないと思います。
以上の4つが現時点で考えられる楽天の携帯市場参入の課題点であると考えています。
4キャリアには市場活性化と画期的な新サービスの展開に期待!
楽天としても、9500万件に上るポイントサービス(楽天ポイント)を利用した様々な優遇策を打ち出して楽天経済圏を構築していくと思われますし、「カード事業と並ぶけん引役に育てていく」と意気込んでいましたから、これらの課題をどのように解決して成功への道を歩んでいくのかを引き続きウォッチしていきたいと思いますし、期待をしています。
もちろん、4社が利益なき料金値下げ合戦となれば日本の携帯市場の健全性や成長性や失われてしまうだけとなる可能性が高いので、ユーザーにとって魅力ある新規サービス展開によって新市場を開拓したり、携帯市場の拡大を前提に競い合って頂きたいところです。
たとえば、IoTに関連した画期的な通信モジュールを何かに組み込んで追加販売できるようになり、そしてユーザーは今まで以上に大きな恩恵が受けられるなら、キャリアの4社は今より大きな利益が得られるような企業に発展できるかもしれません。
勝手なことを申し上げますが、NTTドコモ、KDDI、Softbank、楽天、そして利用者の全てがWin-Winである形の市場活性化とサービスの発展を期待しております。